東京 closing down

青年の日常や苦悩と歯痒いまでのリアリティに落とし込まれる楽曲の数々に、全編エンドロールな新進気鋭の問題作 Photo by shun nishimu

東京

蘇生(2/2) 8/11 19:28

突然の土砂降りを全身で浴びながら、”ショーシャンクの空に”を思い返していた。 約20年かけて独房の壁を掘り進め嵐の夜ついに脱獄に成功し、身に纏うものを脱ぎ捨て雨の降りしきる天を仰いだアンディに自身を重ねる。 黒い傘を広げた背広の中年が、奇妙なも…

overture(1/2) 8/4 23:20

狛江駅の改札を南口に抜ければ、人がまばらに行き交う商店街に出た。商店街、とは言っても特段賑わうこともなく、特に平日である今日は老舗とおぼしき立ち飲み屋で会社帰りのサラリーマンがハイボールを飲んでいるだけだった。その立ち飲み屋の二軒隣りには…

彩り 7/31 11:04

「お電話ありがとうございます。ーー狛江店、国貞が承ります。」 「あのねぇ、お寿司をお願いしたいんだけど」 女性、60代、定年退職した無愛想な旦那と悠々自適の老後生活。 「6人前ほど、いいかしら」 5年前に結婚した息子夫婦は横浜のマンションに暮らして…

くるみ 7/24 23:12

ぷかぷかと浮かび、換気扇に吸われていく煙を目で追いながら、相変わらずの台所の壁にもたれるようにしゃがんで、煙草を吸っていた。 近くに置いたスマートフォンのスピーカーから、まるで胸の思いを代弁するように、歌声が聞こえてくる。 ねぇ、くるみ この…

擬態 7/15 14:01

渋谷にある某ビル8階にある広いオフィスの端、二十人弱のデスクが用意された島ではカタカタとキーボードのタッチ音だけが無機質に響いていた。 ブルーライト眼鏡を外し、目頭を押さえる。 姿勢を正すように背もたれに伸びれば、冷房が効き過ぎではないかと鳥…

羊、吠える 7/1 14:28

何でもない平日の昼下がり、俺は”牛めし並”の食券を持って入口近くのカウンターに腰掛けた。 日本生まれではないであろう女性の店員は中途半端な量の水を無愛想に置き、 「ギュメシナミ」 と片言の呪文を厨房に向けてぶっきらぼうに伝える。 ちぎられた半券…

NOT FOUND 6/30 8:42

煩わしいアラーム音に苛立ちを感じながら、重たい瞼をうっすら開ける。 時刻は8:30、目覚めるには理想的な時刻だと毎晩認識して眠りについているはずだが、数時間後にはそれを真っ向から否定する。 夢と現実との境界線が曖昧なまま枕元のスマートフォンを手…