東京 closing down

現実とフィクションと音楽。始まりのエンドロール。 Photo by shun nishimu

渦になる

7.足首 12/1 16:40

畳の匂い。 祖父母の匂いだ。 マッチをおこし、半分に折った線香を灯す。 ゆらゆらと昇る懐かしい薫りを目で追えば、経年を感じさせる些か黄ばんだ壁に祖母と祖父の遺影が並んでいた。 父方の祖父母は、自分の出生と同時に建てたという団地の一軒家で一緒に…

6.夜が明けたら 9/24 0:13

夜の帳は、地面に残った子供達の痕跡を包み込むように辺りに鎮座していた。 ブランコと鉄棒、タコの形をしたアスレチックの遊具が設置された第二公園の一角、手狭なグラウンド脇のベンチに栄治は陣取っていた。 Tシャツに羽織ったパーカーのポケットからラッ…

5.The SEA 9/24 1:01

stability ― 安定。 物事が落ち着いていて、激しい変動がないこと。 「安定安定って世間ではよく言いますけど、アンテイってどういう字を書くか知っていますか。」 目の前にいる世間もよく理解していない“幸せ”な学生を眺める。 羨ましく、恨めしく、いたわ…

4.Girl meets NUMBER GIRL 9/24 1:05

「莉奈ちゃんは何カップなの」 「何カップに見えますか」 「どうだろうなあ」 そう言いながら伸ばされる太い腕を両手で受け止めると、優しく膝の上に戻した。 「お触りはダメですよ。」 「参ったなあ」 後退した額を手で叩き、ぜい肉を蓄えた腹を揺らしなが…

3.スクールフィクション 9/24 0:08

例えばインディーズバンドの追っかけに筆頭する、”まだ売れていないバンド”のファンからすれば、メジャーデビューなどでそのバンドが注目を浴びて新規のファンが増えることを面白く思わないこともある。 言い換えれば、誰も見向きもしない苗から育ててきたリ…

2.退屈しのぎ 9/9 20:17

秒針が小気味良い音を立てながら時間を刻む。 ぼうっと眺めながら、刻々と、二度無い時間を失い続けているのだと、じりじりとシャッターが下りる様をイメージした。 耳に飛び込んできたのは、聞くに聞き逃せない、まさに耳を疑う一言だった。 「セックスって…

1.WHIRLPOOL 9/4 15:30

スケジュール帳を見返して驚いたが、何も予定のない無計画の休日を過ごすのは、実に四月最後の日曜以来のことだった。 休みを得たところで特別するべきことも見つからず、友人と呼べる存在も乏しかったことから、曜日感覚も忘れアルバイトに忙殺される生活を…