東京 closing down

現実とフィクションと音楽。始まりのエンドロール。 Photo by shun nishimu

揶揄と散文

3秒間のサイエンスフィクション

仕事の都合で赴いてた渋谷一等地のビルは、外観から小洒落ていた。 ただ物を届けるだけという簡単な任務だけれど、それでも入構には勇気がいった。 エレベーターもどこかSFじみているし、12階で降りると開放的なフロントには丸とも四角ともつかぬテーブルと…

これだから人生はやめられない。

何だって言うんだ。 「驚くほど綺麗にウロコが取れる!」なんてキッチン用品を、一体誰が買いに来ているのだろう。 俺はただ、霧吹きが欲しいだけだ。 時間がない。 ひょんな事から仕事で霧吹きが必要になり、それも10分後に欲しいなんて上司が言い出すもの…

湿った夢

清流の音だ。 清らかに流れる、透明な川だ。 その澄んだ音に耳をあずけ、誘われるように、黒く湿った木々を、すり抜けるように歩いた。 斜面はないから、山ではなく林のような場所だろう。 足取りは軽く、いや、ほとんど浮いているようで、だけれども後ろを…

ろくでもないこと

「人生は煙草みたいなもんだ。最期はみんな灰になる。」 宮沢は火をつけたばかりの煙草をゆらゆらと揺らして言った。 「それなら別に、ビールだっていいじゃないか。飲み干せば最後には」 そう言って葛木はビールを一息に飲み干し、骨しか残らない、と続け、…

1グラムと空中分解 2/10 15:00

一万円を無くした。 それは決して、新宿の居酒屋でぼったくられたとか、パチンコで負けたであるとか、はたまたヤフオクで使い物にならないものを一万円で落札したわけでもない。単に、一万円札を紛失しただけだ。仕事の関係で二万円の立替が必要になることが…

忘却と怠惰 1/27 5:00

やらないといけない事が無いわけじゃないけど、それはなんとなく、今じゃないと思えた。かと言って、他にやることがあるわけでもない。確かに今、少しでも空いた時間に済ましておけば後々楽になるタスクもある。でもなんとなく、今じゃないと思えた。布団に…

ロストタイムと相対性理論 1/20 22:34

「なるほどな。」 「どうしたんですか?」 「“E=mc^2”だ。」 「なんですかそれは。」 「アインシュタインの式だ。 相対性理論って知ってるか」 「詳しくは知りません」 「E=mc^2、Eはエネルギー、mが重さ、cが光の速度だ。」 「なるほどですね」 「光の速…

弁当箱と換気扇 12/28 8:41

職場では、多忙なスケジュールを抱えるスタッフの為に、出前や弁当の注文をとっている。 夜勤のおれはその余りを、夜食として深夜に戴いていた。 千円近くする弁当は、一つ一つの具材が丁寧に調理されており、冷めていてもなおコンビニ弁当では味わえない満…

煙草と天動説 12/24 6:32

《東京の太陽は、ビル間から昇る。》 例えば有神論者は、 『この世界は神が創造したのだ』と謳う。 生命の誕生も地球の終焉も、神の意向によるものだと説く。 であるのなら、人の記憶や過去の記録は何の効力も失って、1995年2月27日におれが生まれたことの証…

咆哮とジョン・レノン 12/1 12:45

《一体何だというのだ》 プルースト現象とは、嗅覚や味覚から過去の記憶が呼び起こされる現象のことだ。 フランスの作家であるマルセル・プルーストの作品、“失われた時を求めて”の作中で、主人公がマドレーヌを口にしたとき幼少期の記憶が鮮明にフラッシュ…